開発者の夢「世界初」 実現の極意は「トレードオフ」の攻略
2017/03/14 掲載
「世界初」、それは開発者として目指すところのひとつです。「世界初」の小型化、薄型化、軽量化、高精度…など様々な商品が開発されています。
開発者にとって、「世界初」の商品を完成させることは、開発者冥利に尽きるところです。
もちろん簡単なことではなく、それを達成するために、あちらを立てれば、こちらが立たぬという「トレードオフ」の関係に悩まされ、それを打開するために度重なる改良を続けています。
今回は、タニタが開発した「世界初」15mmの薄型化と50gの細かい単位で測定が出来る高精度が両立した薄型高精度体組成計「BC-310」の開発秘話をご紹介します。
すべては「世界初」のために。「BC-310」の開発秘話
世界最薄の厚さ15mm、50g単位で高精度測定が出来る体組成計 「BC-310」
「世界初」の薄型化・高精度のために改良した点は、大きく3つありました。
(1)はかり構造の改良
(2)体組成計外装部分の改良
(3)重量をはかるセンサーの改良
(1)はかり構造の改良
重さをはかる構造のひとつとして、「はかり構造」があります。その「はかり構造」は「槓桿(こうかん)式構造」と「4点式構造」の2つに大きく分類されます。
「槓桿(こうかん)式構造」とは… (図1)
“てこ”の原理より、荷重を1点に集中させて、重量をはかるセンサーに伝える構造のことを言います。
図1
作図:タニタ
「4点式構造」とは… (図2)
体組成計の4隅に重量をはかるセンサーを配置し、この4つのセンサー値を合算する構造のことを言います。
図2
作図:タニタ
槓桿式構造では、“てこ”を支える部分が重さにより摩耗したりや位置がズレたりするため、精度としては重さ100g単位での測定が限界でした。
また、槓桿式構造を採用すると、“てこ”の形状の都合により機器の厚みが40mm以上になってしまうため、薄型化は難しくなります。そこで、“てこ”自体の構造をなくした4点式構造を採用しました。
それにより、機器の厚みが30mm程度と薄型化に成功しました。また、4個の重量をはかるセンサーを体組成計に配置するだけなので、ガラスを使用したデザインなど、機器の外装デザインの自由度が増しました。
そしてさらに、槓桿式構造のときには136kgだった最大計量が、4個のセンサーを使うことにより150~180kgとすることが出来ました。
(2)体組成計外装部分の改良
重さを計る上で機器の外装の強度はとても重要です。
外装を単純に薄くしてしまうと、重さにより“たわみ”が大きくなってしまいます。例えば、150kgをはかると、1~1.5mm程度、たわんでしまいます。
この微小な“たわみ”でも、重量をはかるセンサーへの誤差が発生します。50g単位での高精度な測定を実現するには、この“たわみ”を1mm以下にする必要がありました。
そこで、従来の外装から薄手で精密に仕上がる最新の成形法に変更し、薄型化を実現しました。
この方法は、削ったり熱を加えたりせずに、高速で金型に溶かしたアルミを流し込む方法で、加工を減らし最終形状に近い形で外装が完成します。
それにより、外装の中に重量をはかるセンサーを収める事ができ、薄型化が実現しました。また、形状の最適化を行い、強度をアップさせたことにより、“たわみ”は、0.8mmまで抑えました。
(3)重量をはかるセンサーの改良
上記のはかり構造の改良、外装の改良をした結果、重量をはかるセンサーの小型化が必要になりました。
そのために、様々な形状で、重量をはかったことによる影響などを解析し、最適なものを模索しました。そうしたシミュレーションを何度も行い、薄型化した外装に収まる小型センサーを完成させました。
こうした地道な努力(図3)により、世界最薄15mm、50g単位で高精度測定ができる体組成計「BC-310」は誕生しました。
図3
作図:タニタ
お客様に満足して頂ける商品開発を目指して
今回、「世界初」薄型高精度体組成計の開発経緯を紹介しましたが、開発・設計において、優先順位を付け、それを基に、捨てる機能・両立を目指す機能を明確にして開発を進めていくことは、とても大切なことです。
タニタでは他の商品においても、「トレードオフの関係」に苦労しながらも、いろいろなトライ&エラーを繰り返して、お客様に満足して頂けるより良い商品を目指し開発しています。
「世界初」にこだわったために、お客様が使いにくい商品となってはいないか、必要以上の機能となっていないか…など、「世界初」が開発者のエゴとなってしまわないよう、今後も開発者の夢を追ってお客様に満足して頂ける商品の開発を進めて参ります。